今回のテーマはALS(筋萎縮性側索硬化症)。病棟実習や訪問看護実習でも関わることのある疾患です。
看護実習の事前学習に今回の記事も是非、活かしてください!!
では、いきましょうALS(筋萎縮性側索硬化症)!!
ALS(筋委縮性側索硬化症)とは
・ALSとは、運動ニューロンがしだいに変性・脱落していき、手足の筋肉やのど・舌の筋肉をはじめ、からだのさまざまな筋肉が萎縮していく進行性の難病
・ニューロンとは、神経細胞のことで、神経細胞体と多数の樹状突起、そして1~2本の軸索という長い突起からなる。ニューロンとニューロンの接続部はシナプスという。ニューロンの種類により伝導速度はまちまちだが、一番速いものは210Km/時ほどの速さとなる。
・主な症状として、上位運動ニューロン障害症状(腱反射亢進、病的反射出現、痙性麻痺など)下位運動ニューロン障害症状(筋委縮、筋力低下、繊維側攣縮)
・ALSの症状は上肢または下肢から出現する場合と、舌やのどから出現する場合がある。一般的には後者の方が病気の進行は速いが、いずれの場合にも進行すれば両方とも障害され、全身の筋力が低下し、寝たきりの状態になる。
・症状が進行しても、知覚や記憶は保たれ、眼球運動も保持される
・好発年齢は40~50歳代、男:女=1.3:1でやや男性に多い疾患
・日本では新たに発症する人が年間10万人あたり約2~6人で、5~10%に遺伝性を認める。非遺伝性の発病の原因は不明
・ALSには有効性の高い治療法はないため、対象療法が基本となる。唯一、リルゾールという薬が保険適応であり、目的は進行を遅らせることである
病状
・病状が進行すると、嚥下障害による誤嚥性肺炎や食事摂取不良、呼吸筋麻痺による呼吸障害などの原因で死に至る
・発病から死亡するまでの期間は、人工呼吸器を装着した場合で90か月(約7年強)、装着しなかった場合で40か月(約3年強)とされているが、なかには発病から20年以上も生存できる場合もある
症状
ALSの患者はしだいに
・舌や咽頭、顔を動かす力もが弱くなる
・誤嚥のリスクが高くなる
・発声も困難になり、コミュニケーションが難しくなる
構音障害
・ALSの患者はパピプペポや、ラリルレロの発音が特に難しくなっている 根拠:パピプペポは唇の動きが必要で、ラリルレロは舌が動かせないと発音できない。唇の動きは顔筋、舌の動きは舌の筋肉が関与しているため、上位・下位の運動ニューロンが障害されることで発音しにくくなるため
※舌咽神経、迷走神経、舌下神経の下位運動ニューロンが障害されてみられる麻痺を球麻痺という。これらの神経の運動核が存在する延髄が球形をしていることから❝球❞麻痺と呼ばれ、構音障害、嚥下障害などがみられる
※一方、延髄より中枢の上位運動ニューロン障害では、球麻痺に似た両側性の麻痺がみられ、これを偽性球麻痺という
上位ニューロン 下位ニューロン
・上位ニューロン:大脳皮質運動野から脳幹部・脊髄までの神経
上位ニューロン障害では、筋緊張が亢進し、痙性麻痺、深部腱反射亢進、病的反射(バビンスキー反射など)の出現がみられる
・下位ニューロン:脳幹部・脊髄から筋肉までの神経
下位ニューロン障害では、筋緊張が減弱し、筋萎縮、筋力低下、筋繊維束性攣縮がみられる
・ALSは上位ニューロンと下位ニューロンの両方が障害される疾患
・上位ニューロン障害が強い場合、まず筋緊張の亢進により筋肉のつっぱりなどの症状が筋力低下に伴って生じる。しかし下位ニューロンも障害されるため、筋萎縮とともに筋力低下が起こる
進行を見越したケア
・ALSという疾患は、進行を止めることができない為、常に先を見越したケアを考える必要がある
・ALSの患者は徐々に会話がしにくくなるため、単語カードや透明のアクリル板に五十音順がかかれたものがよく用いられるが、それの使い方に慣れておく必要がある。
・肺換気量の低下も進行するため、人工呼吸器についても説明を前もって行う
・担当の看護師は病状が進行することで、先を見越したケアが必要であるが、説明や練習だけではなく、病状が進行することに対する精神的なサポートを行うことが重要
人工呼吸器
・ALSでは呼吸機能が改善することは無いため、気管切開をして装着する
人工呼吸器を使う主な例
①自発呼吸ができない場合
②自発呼吸はできるが換気・酸素化が不十分な場合
③手術により循環動態が不安定な場合
④体力を温存する必要がある場合
人工呼吸器の管理
観察項目
・患者の観察項目は、痰の色・量・性状、バイタルサインや呼吸音の確認。呼吸音の確認の根拠:人工呼吸器装着の際に挿管チューブが深く入りすぎ、片方の肺だけ換気してしまう事があるため、聴診器で両肺の聴診をし、きちんと呼吸音が聴こえるか確認することが重要なため
人工呼吸器の管理で必要なこと
・外部バッテリーや予備の呼吸回路を準備する 根拠:台風・地震などの停電や、ホースが外れた場合に対応できるようにするため
・何かあった場合に周りの誰もがアンビューバッグを使って手動で呼吸を補助できるようにしておくことが重要。また、常に近くに設置しているか確認しておく。
・在宅療養の場合は、緊急連絡先を把握しておく
気道内圧の上昇と低下のアラーム
・気道内圧の低下を示すアラームが鳴るときは、どこかで空気が漏れていることを示す 根拠:人工呼吸器は患者に酸素を送る、つまりは空気を押し込む(陽圧をかける)ことが一般的で、もし空気がどこかで漏れていた場合、漏れているため気道内圧は下がることになるため
接続の外れや、カニューレのカフエアの抜けなどがないか確認する必要がある
※カフエアとは、カニューレについているカフ(バルーン)の中に入っている空気のこと
・カフは、膨らませて位置を固定したり、カニューレと気管の隙から酸素がもれないようにする役割がある
・カフの圧は定期的に確認する必要がある 根拠:時間がたつと自然に空気が抜けてしまうため
・気道内圧の上昇を示すアラームが鳴るときは、どこかで詰まっていることを示す 根拠:痰が詰まったり、蛇菅(回路のチューブ)が折れ曲がる・水の貯留など何らかの詰まりの原因があり圧が上昇するため
人工呼吸器を装着した患者の看護
・気管カニューレから直接送り込まれる吸気は鼻を通っていないため、そのままでは気道を痛めてしまう。そのため人工的に加湿(成人で32~34℃)・加湿(70%以上)し、フィルターで清浄化する必要がある。根拠:鼻の中は粘膜があり常に湿っており、鼻腔を通過した吸気は、鼻を通ることにより湿った温かい空気になる。さらに、鼻毛などが空気のコホリをとり、きれいにしている。この鼻の役割を人工呼吸器では人工的に行っている。
・気道につくった穴にカニューレを常に挿入しているので、カニューレの周りは常に清潔な状態を保つことが常に重要である。カニューレそのものは1~2週間に1度の交換が必要になる。
・痰の吸引も無菌操作で実施する
・人工呼吸器を「外す」ことは「死」を意味する
・在宅での人工呼吸療法では、家族に痰の吸引手技を指導する 根拠:気管にカニューレという異物を挿入しているため、喀痰が増加することによる、痰詰まりによる呼吸困難を防ぐため
在宅での人工呼吸器利用の際に必要な人や物品の例
●人
・専門医
・往診医
・訪問看護師
・保健所・保健センターの保健師
・ケアマネージャー(介護保険利用時のみ)
・人工呼吸器メーカー担当者
・ヘルパー
●物品
・人工呼吸器(都道府県よりレンタル可能)
・吸引器(都道府県よりレンタル可能)
・吸入器(ネブライザー)(都道府県よりレンタル可能)
・衛生材料(ガーゼ、消毒用品等)
・車いす、歩行器、杖
・トーキングエイド(意思伝達装置)
・消毒剤
ALSの陰性症状
・ALSには陰性症状(起こりにくい症状)があり①眼球運動障害 ②自律神経障害(膀胱直腸障害) ③他覚的感覚障害 ④褥瘡 が4主徴とされている
・ALSの患者は、目はよく動き、排泄も性状、痛みも感じ、褥瘡も発生しにくい 根拠:末梢神経には、運動神経、感覚神経、自律神経(副交感神経と交感神経)がある。このうちALSで障害されるのは、運動神経のみ。運動神経以外の感覚神経や自律神経、そして運動神経の中でも眼を動かす神経だけは障害を受けにくいとされている。
・ALSは運動ニューロンが障害される疾患であるが、目を動かす神経(動眼神経など)はなぜか障害されにくい
今回は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)についてまとめました。
ALSの患者さんは、症状が進行すると眼球以外の動きはみられなくなりますが、意識ははっきりしているので、不用意な発言をしないように気をつけましょう。
では、また!!
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